「延命治療を望みますか?」「葬儀はどのようにしますか?」――突然こうした問いを投げかけられた時、家族は答えに迷ってしまうものです。
そんな不安を減らすために活用されているのが「もしもノート」です。医療や葬儀、財産に関する希望を事前に書き残すことで、家族が安心して判断できる環境を整えられます。
この記事では、もしもノートの特徴や書き方、活用のメリットを詳しくご紹介します。
もしもノートは「自分の意思を家族に伝えるための必須アイテム」
人生の最期を迎えるとき、多くの家族は「故人がどんな希望を持っていたのか分からない」という状況に直面します。葬儀の規模や形式、医療や延命治療への希望、財産の扱いなど、大切な判断を迫られる場面は少なくありません。
そんなとき、自分の意思を事前に記録し、家族に迷いなく伝えるためのツールが『もしもノート』です。
このノートを準備しておくことで、残された家族が安心して判断できるだけでなく、本人にとっても「伝えたいことを形に残せた」という満足感を得ることができます。
特に葬儀や医療に関する意向は、急を要する場面で必ず必要になる情報です。だからこそ、もしもノートは「いつか必要になる」ものではなく、早めに用意しておくべき必須の準備だといえます。
もしもノートとは?役割と注目される理由
もしもノートは、突然の入院や事故、死去といった「もしも」のときに備えて、自分の意志や生活に必要な情報を書き残すためのノートです。
近年は終活の一環として注目されており、自治体や保険会社、書店などでも配布・販売されています。ここではその特徴や役割を整理してみましょう。
終活やエンディングノートとの違い
「もしもノート」と「エンディングノート」は混同されやすいですが、厳密には目的や内容が少し異なります。
エンディングノートは人生全体を振り返り、メッセージや思い出を含めて幅広く記録するのに対し、もしもノートは医療・介護・葬儀・財産管理など、緊急時に必要な情報を実用的にまとめる点に特徴があります。
たとえば延命治療を望むかどうか、葬儀を家族葬にしてほしいかなど、すぐに判断が必要な情報が整理されているのが大きな違いです。
「もしも」に備えるための記録内容
もしもノートには以下のような項目を書くのが一般的です。
- 氏名・住所・緊急連絡先などの基本情報
- 保険証や年金手帳、銀行口座の情報
- かかりつけ医・持病・服薬内容など医療関連情報
- 延命治療や介護に関する希望
- 葬儀の形式・喪主にお願いしたい人・納骨先の希望
- 家族や知人へのメッセージ
このように、もしもノートは「家族が困るポイント」を網羅的にサポートできる実用書として機能します。
家族や遺族にとってのメリット
実際にもしもノートを活用した人の声では、「病院で急に延命治療の希望を聞かれて困らなかった」「葬儀の形式があらかじめわかっていたので迷わず準備できた」といった意見が多く聞かれます。
これはつまり、家族が迷いや後悔を抱えずに済むという大きなメリットです。
また、親しい友人や親戚への連絡リストがあれば、葬儀の際に「誰に知らせればよいのか」と慌てることもありません。
残された家族にとって精神的・時間的な負担を大幅に軽減できるため、もしもノートは「家族への最後の思いやり」として広く利用が進んでいます。
もしもノートに書くべき内容一覧
もしもノートは「自分の意思を残すノート」であると同時に、家族にとって必要な情報を一目で確認できる「生活の記録帳」でもあります。
実際に書き残すべき内容を整理しておくことで、緊急時に家族が迷わず対応できます。ここでは代表的な項目を順に紹介します。
基本情報(氏名・連絡先・保険証など)
最初に記録すべきは本人の基礎情報です。氏名・生年月日・住所・電話番号などに加え、健康保険証やマイナンバーカード番号、かかりつけ医の連絡先も記しておきましょう。
これらは病院の受付や役所の手続きで必ず必要となる情報で、記入漏れがあると家族が探すのに時間を取られてしまいます。
財産や契約に関する情報
銀行口座・クレジットカード・年金・保険契約・不動産などの情報は、遺族にとって最も整理が大変な項目です。
もしもノートに一覧化しておけば、相続や解約手続きがスムーズに進みます。特にネット銀行や電子マネーは存在を知られないまま放置されることも多いため、必ず記録しておくことをおすすめします。
医療・介護に関する希望
「延命治療を望むかどうか」「在宅介護と施設介護のどちらを希望するか」といった意思表示は、家族にとって判断が非常に難しいものです。
もしもノートに自分の考えを書いておけば、病院での緊急対応や介護施設の選択に迷いがなくなります。
最近では「尊厳死宣言」や「事前指示書」といった形で医療方針を残す人も増えており、もしもノートはその第一歩として有効です。
葬儀やお墓に関する希望
葬儀の規模(家族葬・一般葬など)、宗派や菩提寺、納骨の場所なども記録しておくと安心です。
希望する葬儀社がある場合や、香典辞退・会食の有無など具体的な要望も残しておけば、家族が「どうすればいいのだろう」と悩む必要がありません。
特に現代は「費用を抑えたい」「シンプルに送りたい」というニーズも多いため、本人の希望を明確に伝えておくことは大きな意味を持ちます。
家族や友人へのメッセージ
最後に、家族や友人への言葉を残しておく欄を設けるのもおすすめです。感謝の気持ちや伝えたい想いを記すことで、残された人にとって大きな支えとなります。
形式ばったものではなく「ありがとう」「元気でいてね」といった一言でも十分です。もしもノートは事務的な記録帳であると同時に、心を伝えるためのツールでもあるのです。
もしもノートの書き方と実践ポイント
「もしもノートを書こう」と思っても、最初から完璧にまとめるのは難しいものです。むしろ大切なのは、無理のない形で少しずつ記録を始め、必要に応じて更新していく姿勢です。
ここでは実際に取り組む際のポイントを紹介します。
最初から完璧に書かなくても良い
もしもノートは「仕上げること」が目的ではなく、家族に必要な情報を伝えることが最も重要です。
例えば、氏名・連絡先・かかりつけ医など最低限の情報だけを書いておき、財産や契約情報は後から追加しても構いません。ノートの書き方に決まりはないため、まずは「残しておきたい情報」を優先的に記入しましょう。
定期的に見直し・更新する重要性
契約内容や医療の状況は時間とともに変わります。銀行口座の解約や新しい保険の加入など、生活の変化に応じて内容を更新しなければ、いざというときに役に立たない可能性があります。
年に1回程度、誕生日や年末年始に見直す習慣をつけておくと安心です。更新日を記入しておくと、家族も「最新情報がここにある」と分かりやすくなります。
家族に伝えるタイミングと共有方法
せっかくもしもノートを作成しても、家族が存在を知らなければ意味がありません。
机の奥や本棚にしまい込むのではなく、「このノートはもしものときに必要だから、ここに置いてある」と家族に伝えておくことが大切です。コピーを渡したり、必要な部分だけを共有するのも一つの方法です。
また、最近はパソコンやスマホで管理できる「デジタル版もしもノート」も増えています。クラウドに保存して家族と共有する形であれば、離れて暮らす家族でもアクセス可能です。
ただしセキュリティの観点から、銀行口座や暗証番号のような機密情報は書き方に注意が必要です。
このように、もしもノートは「書いて終わり」ではなく、継続的に見直し、家族と共有することで初めて真価を発揮するツールとなります。無理なく始めて少しずつ整えていけば、家族にとっても自分にとっても安心できる準備となるでしょう。
もしもノートはどこで入手できる?

もしもノートは特別な書類ではなく、手に入れやすい身近なツールです。自治体や保険会社、書店などから入手できるため、自分の状況や目的に合わせて選ぶことができます。ここでは主な入手方法を紹介します。
自治体や保険会社が配布しているケース
多くの自治体では「終活支援」や「高齢者向け相談」の一環として、無料で配布している場合があります。
市役所や区役所の窓口、福祉課などで配られることが多く、地域独自の説明が添えられていることも特徴です。また、生命保険会社や金融機関でも顧客向けにオリジナルのもしもノートを提供しているケースがあり、契約者であれば無料でもらえることもあります。
書店やオンラインショップで購入できる市販品
書店では「エンディングノート」と並んで、もしもノートやそれに準ずるノートが販売されています。
価格は数百円から2,000円程度まで幅広く、デザインや内容も多様です。例えば、医療や介護に重点を置いた実用的なタイプから、日記のように記録を楽しめるタイプまであります。
オンラインショップではレビューや内容見本を確認できるので、自分に合ったものを選びやすいでしょう。
無料ダウンロードできるテンプレートも活用可能
インターネット上には、行政やNPO法人が公開している無料テンプレートも多数存在します。自宅でプリントアウトしてすぐに使える手軽さが魅力で、コストをかけずに始めたい人におすすめです。
特に「まずは試しに書いてみたい」という方には最適です。ただし、ダウンロード版は自己管理が必要なため、更新のたびにプリントし直す手間がかかる点には注意しましょう。
このように、もしもノートは無料で配布されるものから市販の有料版まで幅広く用意されているため、目的や使いやすさに合わせて選ぶことが大切です。
大切なのは「どのノートを使うか」ではなく、「書き始めること」そのもの。手に入れやすいものから始めて、少しずつ整えていくことが理想です。
もしもノートを活用するメリットと注意点
もしもノートは書き残すことで自分の意思を整理できるだけでなく、残される家族にとっても大きな助けとなります。
ただし、メリットを最大限に活かすには注意点も理解しておく必要があります。ここでは代表的なメリットと注意点を整理します。
家族が迷わず判断できる安心感
もしもノートの最大の利点は、家族が迷わずに行動できることです。医療の場面では「延命治療を希望しますか?」と突然聞かれることがあります。
本人の意思がノートに記されていれば、家族は悩むことなく判断できます。同様に、葬儀の形式や喪主の希望が明確であれば、遺族の負担は大幅に軽減されます。家族の迷いや後悔を減らせることが、もしもノートの大きな役割です。
葬儀社との打ち合わせがスムーズになる
葬儀の打ち合わせでは「式の規模」「宗派」「会食の有無」などを短時間で決めなければなりません。もしもノートに本人の希望が記載されていれば、遺族はそれをもとに葬儀社と相談できるため、打ち合わせがスムーズに進みます。
特に最近増えている「家族葬」や「直葬」の希望は事前に伝えておかないと実現が難しいケースもあるため、ノートで明確に残しておくことが重要です。
法的効力がない点に注意
一方で、もしもノートには遺言書のような法的効力はありません。たとえば相続の分配方法を記しても、法的には効力を持たず、正式な遺言書が優先されます。
そのため、財産分与や相続に関する部分は「遺言書」と併用することが望ましいといえます。もしもノートはあくまで家族に気持ちや希望を伝える「意思表示の補助ツール」と考えるのが適切です。
このように、もしもノートは「家族に安心を与える」点で大きなメリットがある一方、法的効力がないなどの限界もあります。したがって、法的手続きが必要な内容は遺言書で補い、それ以外の生活や葬儀の希望はもしもノートで伝えるという使い分けが理想的です。そうすることで、自分の意思を最大限に反映させつつ、家族の負担も軽減できるでしょう。